芝大門法律事務所 所属弁護士 田村佳弘

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CATEGORY :仕事の話

ウォーカブル

昨年12月26日、国土交通省から、国土審議会土地政策分科会企画部会における審議結果を踏まえ、土地基本法の見直しと人口減少社会に対応した「新たな総合的土地政策」の策定に向けた「中間とりまとめ」が公表されました。この「中間とりまとめ」は、所有者不明土地の問題等への提言が盛り込まれるなど概ね予想された内容ですが、その中に最近良く目にする「ウォーカブル都市」という言葉を見つけました。

この「ウォーカブル都市」への言及は、「居心地が良く歩きたくなるまちなか」を形成することにより、内外の多様な人材・関係人口の出会い・交流を通じたイノベーションの創出や人間中心の豊かな生活を実現する都市を構築していくべきという「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」が示した考え方を踏まえたものです。「居心地が良く歩きたくなるまちなか」が増えることは喜ばしいことですが、急ぎ過ぎたり、殊更効果を追求するなどして、どこか似通った「まちなか」にならないことを願っています。上記懇談会では、まちづくりに取り組む際の視点として10の構成要素を掲げていますが、そのうちの「場所性や界隈に根差し、本物のオンリーワンが生まれる。」という構成要素の箇所において、古い建物や歴史を感じさせる建物の持つ重要性が指摘されています。

新耐震基準の木造住宅の耐震性能検証法

平成28年9月に公表されました「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会報告書」では、調査結果の報告に加え、浮き彫りになった課題についてどう対応すべきかの方向性が示されました。例えば、新耐震基準導入以降の木造建築物の中でも、(柱とはり等の)接合部の仕様等が明確化された2000年以降の倒壊率が低いことを踏まえ、明確化以前のもので、接合部の仕様等が現行の仕様等に適合していない木造建築物については、被害の抑制に向けた取り組みが必要であるとの方向性を打ち出していました。そして、国土交通省は、この報告内容を受けて、リフォーム等の機会において既存建物の接合部の状況を確認することを推奨することにし、一般財団法人日本建築防災協会に対し、効率的な確認方法の検討を依頼していたところ、平成29年5月16日、同協会によって、「新耐震基準の木造住宅の耐震性能検証法(新耐震木造住宅検証法)」が公開されました。

この検証法の対象は、在来軸組構法の木造住宅(基礎がコンクリート造であるもの)で、1981年6月1日から2000年5月31日までに建築された、平家建てまたは2階建てのものに限られますが、リフォーム業者としては、接合部の状況次第では、(これまで以上に)適切な営業と提案によりビジネスを広げることができるかもしれません。「適切な」という点が重要ですが。

建設業法令遵守ガイドラインの改定

建設企業における元請負人と下請負人の取引のルールとして「建設業法令遵守ガイドライン−元請人と下請負人の関係に係る留意点−」が策定されていたところ、国土交通省は、平成29年3月29日、下請代金の支払手段にかかる項目を追加するなどした最新のガイドラインを公表しました。この最新のガイドラインでは、立入検査で多くみられる違反行為事例が追加されていますので、目を通しておくと、「うっかり違反」が避けられ又は自社の業務改善に役立ちます。

株主リスト

平成28年10月1日以降の株式会社・投資法人・特定目的会社の登記の申請に当たっては、ケースによって、「株主リスト」が添付書類として必要とされるようになったところ、法務省は、昨日(平成29年1月30日)、その記載方法などを説明した「株主リストに関するよくあるご質問」をウェブサイトにて公表しました。株主リストを準備する事務方にとっては参考となる情報が掲載されていますのでご案内する次第です。もっとも、どのように記載するのかという点も大事ですが、「株主リスト」という新たな書類の登場によって、これまでの会社法実務が影響を受けるのか又は受けないのかという点により強い関心があります。

被災マンション法

「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」(被災マンション法)は、法務省所管の法律ですが、先日、この法律について、法務省民事局の参事官による講演がありました。被災マンション法は、大規模な火災や震災等により、マンション等の区分所有建物の全部又は一部が滅失した場合における特別な措置を定めた法律であり、最近では、平成28年熊本地震による災害に適用されております。実務上判断に迷いそうな点について質問をしたかったのですが、丁寧な解説であったため、時間がおして、質問できなかったのが少々残念でした。なお、起きてほしくない事態ですが、区分所有建物が密集する首都圏において大規模な災害が発生し、同時に多数の区分所有建物が損傷した場合、この法律が期待どおり機能するかについては、正直申し上げて、相当厳しいとの感想を抱いております。

一括下請負の禁止について

国土交通省は、一括下請負の禁止にかかる判断基準をより明確にするために、平成28年10月14日、「一括下請負の禁止について」(平成28年10月14日付け国土建第275号)を定め、建設業団体等に通知しました。ただ、判断基準がより明確になったといっても、種々の事情に鑑みると、事業者にとっては今後も悩ましい問題であり続けるものと思われます。

ちなみに、一括下請負の禁止は、元請負人だけではなく、下請負人にも及びますが、その一方で、伝統的な理解によれば、この禁止に違反した下請負契約自体は当然に無効となるものではないとも解されています。そうすると、例えば、一括下請負の禁止に違反するかもしれない下請負契約を締結してしまった場合、その下請負人は、その後、どのように対処すべきなのでしょうか。契約内容や個別の事情によりますが、これもまた悩ましい問題となります。

不動産取引とグレーゾーン解消制度

グレーゾーン解消制度とは、産業競争力強化法に基づくもので、現行の規制の適用範囲が不明確な場合においても、事業者が安心して新分野への進出等に取り組めるよう、具体的な事業計画に即して、事前に規制の適用の有無を確認できる制度です。経済産業省から、昨月、今月と不動産売買に関連する情報が公表されましたので、ご紹介します。

まず平成28年6月15日付「News Release」では、顧客に不動産業者の会社情報を提供し、顧客と不動産業者が希望する場合には両者の面談に同席し、売買契約が成立した場合に不動産業者から顧客情報提供の手数料を収受する行為が、宅地建物取引業法第二条第二号に規定する「宅地建物取引業」に該当するか否という照会につき、経済産業省と国土交通省による検討の結果、「該当しない」との回答がなされたことが紹介されています。 照会のあった事業は、物件の説明、契約成立に向けた取引条件の交渉・調整等の行為は、顧客と不動産業者間にて直接行い、事業者は一切関与しないものとされておりますが、照会のあり方に苦労(工夫)の跡が見て取れる事例でした。

続いて平成28年7月4日付「News Release」では、中古住宅の売買に際し、住宅の点検を行う事業者又は不動産仲介事業者が、予め金銭を徴収して住宅設備機器の保守及び故障時の修理を行う事業について、保険業法に規定する「保険業」に該当するか否かという照会につき、「該当する」との回答がなされたことが紹介されています。 関係省庁による検討の結果、照会の事業においては、①保守・修理契約の主体が住宅設備機器の瑕疵について民事上の責任を負う製造販売事業者ではないこと、 ②本事業のような仕組みは保険取引と異なるものと認知されているとは言えないこと等から、「保険業」に該当するとの結論に至ったようです。 この照会は、住宅の点検事業者が行っていますが、不動産売買に付随・関連するサービスの実施の可否については、不動産業者の関心が高く、この回答内容を最も残念に思っているのは、不動産業者であると推測しています。

自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン

大規模な自然災害から生活を再建するためには、法的倒産手続によらずに、住宅ローンなどの債務の整理が必要であるところ、昨年12月に、そのような債務整理を公正かつ円滑に行う準則として、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」が策定・公表されました。

一定の要件はあるものの、平成27年9月2日以降に災害救助法の適用を受けた自然災害によるケースからこのガイドラインによる住宅ローンなどの免除・減免の申し出ができるとされており、全国銀行協会のWEBサイトなどには、Q&Aもアップされています。出来て間もないガイドラインですが、平成28年(2016年)熊本地震のケースにおいて、このガイドラインの積極的な活用が想定されます。

特区民泊説明会

本日、大田区が開催した大田区国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業(特区民泊)説明会を傍聴しました。特区民泊に関する条例・規則やガイドライン等の基本情報は、大田区のホームページで公開されておりますので、制度の概要を知るために傍聴したわけではなく、出席者と大田区との質疑応答を介して、出席者がどのような点に関心を持って、悩んでいるのか、区が現時点でどの程度まで具体的な問題点を検討しているのかを把握するためでした。20分程度の質疑応答の時間では、出席者による質問が途切れず、特区民泊に対する関心の高さを感じ取ることができました。職業柄、手続上の問題点やトラブルになりそうな場面・対策を考えながら傍聴しておりましたが、この新制度によって、近隣住民の生活と調和しながら、新たな活気が生まれることを期待した次第です。

開発許可処分の取消

インターネット上の情報を参考にする限り、鎌倉市所在の土地に関する開発許可をめぐり、開発許可処分取消請求訴訟が提起され、議会で質疑等がなされるなど、法的及び政治的にホットな状況になっているようですが、平成27年12月14日、この取消請求訴訟に関して、最高裁判決が下されました。

もっとも、この訴訟の争点は、「開発行為に関する工事が完了し、検査済証が交付された後においても、開発許可の取消しを求める訴えの利益があるか否か」という一般の方には馴染みの薄いテーマです。結論だけを紹介すれば、最高裁第一小法廷は、問題とされた開発区域が市街化調整区域内にあることを踏まえ、次のように説示し、訴えの利益を認めました。

 「市街化調整区域内にある土地を開発区域とする開発行為ひいては当該開発行為に係る予定建築物等の建築等が制限されるべきであるとして開発許可の取消しを求める者は,当該開発行為に関する工事が完了し,当該工事の検査済証が交付された後においても,当該開発許可の取消しによって,その効力を前提とする上記予定建築物等の建築等が可能となるという法的効果を排除することができる。以上によれば,市街化調整区域内にある土地を開発区域とする開発許可に関する工事が完了し,当該工事の検査済証が交付された後においても,当該開発許可の取消しを求める訴えの利益は失われないと解するのが相当である。」

 今後、実体面の審理がなされるはずですので、将来興味深い内容の判決が下さるようであれば、その際に改めて紹介します。

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