「幸せ」の響きと色合い
読売新聞の編集手帳というコラムに「あ」という「音」の響きについての話がありました。このコラムを読んで思い出したのが、ヒトラーの演説データを分析した「ヒトラー演説」(中公新書 著者:高田博行)という本です。この本の中では、ヒトラーがオペラ歌手から発声法の指導を受ける場面が描かれていますが、ヒトラーが「幸せ」という単語を、その単語にふさわしい響きと色合いで発音する練習を行うと、この「幸せ」という言葉が心に迫り来るように聞こえたとあります。物事に取り組む姿勢だけをとりあげれば、見習うべきものがあります。風邪をひいてかすれた声ですが、来年は皆様が幸せでありますように。
絶対製造工場
人工知能が人類の頭脳を超えるとされる2045年問題がより現実的な問題として語られるようになり、6月12日には、「総務省の有識者会議が、人工知能のトラブルによる事故が起きた際の責任を明確化する法整備などを提言する。」との読売新聞の報道がありました。反りが合わない上司よりもロボットに仕えたいという内容のサラリーマン川柳が登場しそうですが、そのような週末に、カレル・チャペックの「絶対製造工場」を読みました。カレル・チャペックは、ロボットという言葉の生みの親とされる作家・ジャーナリストです。この「絶対製造工場」では、「物」から膨大なエネルギーを取り出す画期的な機械がどの物質にも存在する「神」(絶対)を副産物として吐き出し始め、世界中が「神」で溢れ、混乱する様子が風刺的に描かれています。挿絵も好みで楽しく読み通すことができましたが、国内外の様々な場面・レベルで「絶対」の対立が満ちている現実にどう向き合うのかを考えさせられる本でした。
春宵十話
角川ソフィア文庫から日本が誇る天才的数学者岡潔氏の「春宵十話」と「春風夏雨」が復刊されました。「人の中心は情緒である」ことを基本に据えて、いずれも著者の考えが自由な形式で述べられています。本の題名でもある「春宵十話」は、50年以上前に毎日新聞社で連載され、多くの人に影響を与えたようです。述べられていることが正しいかどうかはともかく、確かに人を惹きつけます。著者は、学生に対し、集団として考え、また行動するようしつけることに批判的で、「数人寄ってディスカッションをしないと物を考えられなくなる。しかしそれでは少なくとも深いことは何一つわからないのだ。」と述べていますが、「一人で」かつ「深く」考えた人の言葉だからこそ人を惹きつけ、影響を与えることができるのでしょう。話が面白い人の特徴の一つです。
撤饌
今更ながら
手土産
歴史主義の貧困
年末の休みを利用して、「歴史主義の貧困」(日経BPクラッシックス 著者:カール・ホパー)を読み直しました。カール・ホパーは、全体主義を批判した哲学者ですが、本書では、「本書成立の経緯」という箇所で端的に述べられているように、「本書の基本的主張は、〈歴史的な運命への信仰はまったくの迷信であり、人間の歴史の行く末を科学的方法または何らかの合理的方法により予測することはできない〉というものである。」という点について論じています。英語版の出版は1957年ですが、60年以上経てもなお興味深く読むことができる内容です。
この後、積ん読状態の「技術への問い」(平凡社 著者:マルティン・ハイデッガー)に挑戦しましたが、ページをめくる手が重くなってなかなか先に進まず、敢え無く途中棄権となりました。