芝大門法律事務所 所属弁護士 田村佳弘

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マンション管理組合における理事会の裁量権

多くのマンション管理組合では、理事会が存在し、理事会が中心となってマンション管理が行われております。今回は、この身近な理事会に関する裁判例を紹介します。

管理組合法人の事案ですが、総会で大規模修繕工事の決議がなされたものの、ある事情から、その後、大規模修繕工事の一部を保留する決定を理事会が行い、実際に保留された工事の実施を見合わせたところ、これを不服とする区分所有者Aが理事らに対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償などを請求したというものです。当時の事情としては、規約に反して専有部分(店舗)前の共用部分に室外機や看板を設置していた区分所有者Aが、工事に協力する条件としてその規約違反状態の容認を求めるなどしたために、その店舗前の共用部分のタイル張替工事を断念せざるを得なかったようです。

 この事案において、裁判所は、「本件修繕工事については、総会が実施することを議決したが、理事会は、すべてにおいてその執行(実施)が義務付けられたというものではなく、執行(実施)する権限が授与されたものというべきであり、理事会が本件修繕工事を実施するにあたっては、理事会に一定の裁量が認められているというべきである。」と説示した上で、本件では裁量の逸脱は認められないなどと判断して、区分所有者Aの請求を棄却しました(東京地裁H24.3.28 判例時報2157号50頁)。

実務的には、本件のような場合に限らず、理事会にある程度の裁量があることを前提にマンション管理が行われておりますが(そもそも理事会等に一定の裁量を認める内容の総会決議となっているケースも多いと想像されます)、判例時報の解説によれば、「マンション管理組合の理事会に裁量があることを明示した初めての裁判例」であるとのことです。なお、この判決では、理事会が「管理組合の執行機関である」と明言していますが、この点は議論の余地があるでしょう。

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